慢性歯周炎に関わる病原菌がアルツハイマー型認知症の原因となっており、薬によって病原菌の除去と細胞死の抑制が可能と示された。臨床試験進行中。
概要
Stephen S. Dominy, et al.. Porphyromonas gingivalis in Alzheimer’s disease brains: Evidence for disease causation and treatment with small-molecule inhibitors. Science Advances (2019-01) article
"アルツハイマー病の脳内に潜む P. ジンジバリス菌: 病を引き起こす証拠と小分子阻害剤による治療"
歯周病に関わる菌、Porphyromonas gingivalis (ジンジバリス菌) がアルツハイマー型認知症患者の脳内に存在することが判明した。
ネズミにジンジバリス菌を感染させると、ジンジパインタンパク質を介した神経細胞死や、認知症に関わるアミロイドタンパクの産生がみられた。
ジンジバリス菌を標的とした薬剤を設計し、感染ネズミに投与したところ、菌の除去と細胞死の抑制が確認された。
この薬剤は認知症の悪化抑制あるいは改善に効果が期待され、現在、臨床試験第1相を通過しており、第2/3相試験が予定されている。
が、認知症行動に関する実験が行われていないため、この論文で「ジンジバリス菌が認知症を起こす」と理解するのは早計だと私は考える。
臨床応用: 治験が進行中 (フェイズ1 通過)
経口投与可能なKgp阻害剤が開発中であり、アルツハイマー型認知症に対するヒト臨床試験 (治験) が進んでいる.
リード化合物であるCOR388がアメリカにおいて第一相臨床試験 (Phase1b) を通過. 1
2/3相試験は2019Q2 (春)に全世界で予定 2
研究者向け
背景
ジンジパイン / gingipains: システインプロテアーゼ群。Kgp, RgpA, RgpB (Lysine(K)/Arginine(R)-gigipainが正式名称)がタンパク質
結果
P. gingivalisとアルツハイマー型認知症の相関
P. gingivalis由来タンパク質とAD患者の相関
手法: 免疫組織
AD患者および健常人由来の側頭葉スライスに対し、ジンジパインとTau (p-Tau含む) で免疫染色.
ADのうち9割以上でジンジパイン発現が確認され (健常人は約50%)、発現量はADにおいて高かった.
ADではジンジパイン量とTau量は正の相関がみられ、さらにジンジパイン量はユビキチン量とも正の相関がみられた。健常人でも正の相関がみられたことは示唆的である。
PDやハンチントン病の患者スライスでは、健常人との間に有意なジンジパイン量の差は認められなかった。
ジンジパインの局在、AD関連タンパク質との共局在
手法: 免疫組織
RgpBタンパク質の海馬における局在を免疫染色によって調べた.
DGからCA1までRgpBの発現が認められたことから、細胞種の同定をおこなった。
ニューロン(MAP2) およびアストロサイト (GFAP) の内部にRgpB発現がみられ、ミクログリア (Iba1) との共染色は見られなかった。
RgpB陽性細胞ではTau, APの凝集がしばしば観察された。
また、皮質lysateからジンジパイン抗体によって免疫沈降をおこない、さらにウエスタンブロッティングをおこなったところ、ADおよび健常者の5/6においてバンドが確認された。
P. gingivalisの存在
手法: qPCR
ウエスタンと同様のサンプルに対し、P. gingivalis 16S rRNAあるいはジンジバリス菌specific遺伝子に相同性をもつPrimerを用いてqPCRをおこなった。
ウエスタン陰性のサンプルを除き、DNA増幅が確認された。
同じグラム陰性菌であるピロリ菌のPrimerでqPCRをしても増幅が確認されなかったことから、擬陽性ではなくP. gingivalisが存在していると示唆される。
脳脊髄液におけるP. gingivalisの存在
手法: qPCR
AD診断を受けた患者から脳脊髄液を採取し、qPCRによってジンジバリス菌の存在を調べた。
7/10のAD患者においてDNA増幅が確認され、また唾液からqPCRをおこなったところすべての患者でDNA増幅が確認された。
ジンジパインタンパク質の役割
Tauの切断
ジンジパインのプロテアーゼ活性がTauを切断するか検証した。
SH-SY5YラインにP. gingivalisを感染させ、水溶性Tau量をウエスタンで確認したところ、数時間でバンドの強度が低下した。
Tau配列にはジンジパイン標的配列が含まれており、MSによる断片解析によってTauの切断が確かめられた。
細胞死の誘導
ジンジパインが細胞の生存に影響をあたえるか評価した。
SH-SY5YラインにRgpB、Kgpを添加すると、細胞の凝集がみられた。不可逆的なシステインプロテアーゼ阻害剤でジンジパインを事前処理するとこの凝集が起きないことから、ジンジパインのシステインプロテアーゼ活性が細胞毒性を引き起こしていると考えられる。
細胞死の抑制
ジンジパイン阻害が毒性を抑えることから、P. gingivalis感染に対するジンジパイン阻害薬の効果を検証した。
SH-SY5YラインにP. gingivalisを感染させジンジパイン阻害剤を添加すると、細胞死が完全に抑制された。
in vivoでの効果を検証するため、ジンジパイン阻害剤を事前投与したマウスの脳へP. gingivalisをインジェクションしたところ、対照群でみられたニューロン死が起きなかった。
P. gingivalisとアルツハイマー型認知症の因果関係
P. gingivalisの経口投与と神経細胞死・アミロイドタンパク質
マウスへP. gingivalisを6週間 経口投与し、アミロイドタンパク量と死滅した細胞数を定量化した。
.P. gingivalisの経口投与はAPの増加と細胞死を引き起こし、これはジンジパイン阻害剤の事前投与群では認められず、またジンジパイン遺伝子欠損株の経口投与でもAP増加および細胞死は認められなかった。
P. gingivalisとアミロイドタンパクの関係
APには抗生作用が示唆されていたことから、in vitroのP. gingivalisに対してAPを添加した。APがコロニー辺縁に集合し、バクテリア死が増加することが確認された。
結果まとめ
口腔に存在するP. gingivalisは9割以上のAD患者脳内に存在し、ニューロン・グリアに感染している。
ジンジパインを介したP. gingivalisの毒性が細胞死を引き起こすこと、ジンジパインはTau切断能を持つ。
ジンジパイン阻害剤はP. gingivalisによる細胞死およびAP増加を抑制する効果をもつ.
個人的考察
行動実験がないため、ジンジバリス菌と認知症行動の因果関係は明確でない。ジンジバリス菌投与群で認知症様行動をとる行動試験データが欲しかった。
おまけ
法人
Cortexyme, Inc. の人が1st authorかつcorresponding author.
ファイザーが出資に入っている。最近series Bの資金調達をしたっぽい。