たれぱんのびぼーろく

わたしの備忘録、生物学とプログラミングが多いかも

ボイチェンは声のメイク - 声そのものの権利は認められない -

ボイスチェンジは声のメイク/化粧だ。
知人そっくりのメイクをしたら、その人の顔面権侵害になるだろうか?
然るに、声のそのものの権利 - 音紋権 - は存在しない。

ボイスチェンジは声のメイク

ボイスチェンジとは、機械によって声質を変換することである。
例えば、ぼそぼそ声をハッキリとした声へ変えたり、別の人に似た声へ変換することができる (将来的には)。

声は人間が生まれ持ったものではあるが、後天的にボイチェンで変えられるのだ。
これは化粧の関係に非常によく似ている。
顔も人間が生まれ持ったものではあるが、後天的に化粧/メイクで変えられるのだ。
つまりボイスチェンジとはまさしく声のメイク/化粧なのである。

知人そっくりの化粧は顔面権の侵害か?

化粧により人は化けることができる。
化粧のプロをもってすれば、ある知人そっくりのメイクをすることも可能である。
ではこの場合、知人似の化粧は、知人が生まれ持ったの権利 (言うなれば顔面権) を侵害するだろうか?

多くの方の素朴な直感は「メイクで権利侵害とか言われたらメイクできないじゃん。でもそっくりの化粧して本人を騙ったりするのはまずいんじゃね?」かと思う。
ここで重要なのは「顔の造形そのもの」と「人そのもの」を分けて考えることである。

ある人を傷つけること、例えば名前を騙ったり、本人と誤解される状況で本人の評判を下げるような行為は、言語道断である。
その点で、知人似のメイクをしてさらにその人と同じ芸名を騙って何かをする、あるいは名を名乗らず (本人だと誤解されうる状況を看過して) 悪評が立つ行為をするのは認められない。
つまり「人そのもの」言い換えれば「アイデンティティ・人格」を侵害する行為から守るために、何かの権利が設定されることは妥当である。

一方で、顔の造形そのものはどうだろうか。
たしかにその人らしさは造形に宿るものだが、造形はあくまで造形である。その人らしさ・人格を別の権利で守るなら、その点については問題がない。
では何か権利を設定する妥当性があるのか? 生まれ持った形だから自然と権利がつく? ナンセンスだ。論理を用意してくれ。

では、造形そのものを真似るだけの化粧は何かを侵害しているだろうか?
ここまでの議論ではっきりした。
生まれ持った顔の造形を守る顔面権は妥当ではなく、化粧/メイクがそれを侵害するようなこともない

ボイスチェンジは声そのものの権利を侵害するか?

ボイスチェンジが声のメイク/化粧であること、また生まれ持った顔の造形そのものには権利が発生せず、そっくり顔への化粧はそれを侵害しえないことを述べた。
ここから導かれることは、
声そのものには権利が存在せず、そっくり声へのボイスチェンジは権利侵害となりえない
という重要な結論である。
それを論証するうえで、顔面権の議論と同じように、ここで重要なことは「声そのもの」と「人そのもの」を分けて考えること、さらに「演じられた音声」を分けて考えることである。
知人そっくりの声にボイスチェンジすることは、声そのものの権利 -いわば音紋権- の侵害にあたるだろうか?

ボイスチェンジをして知人を騙ったり、知人と誤解されるような動画をYouTubeへアップロードすることは看過できない。
それを守るため何らかの権利が設定されることは妥当であり、それは声に限らず人格を守るための様々な権利で既に保証されている。

また「演じられた音声」とも区別しなければならない。
演じられた音声とは、ある声をもった人がある台詞を読み感情をこめて表現したものである。作品と表現するのがしっくりくるであろう。
作品は「人そのもの」とはまた別の存在であり、創作活動を活発にするため作品に権利が設定されることには妥当性がある。
実態として、「演じられた音声」の作者にはその作品の権利が著作権という形で担保されている。

では「声そのもの」に権利は発生するだろうか。
声そのものは当然、しゃべられる内容すなわち台詞とは独立している。
一方で、ある人はある声を持っている、声には個性がある、と我々は感じる。
すなわち、声そのものとは、ある人から発せられる音の特徴を意味している。
たしかにその人らしさは声 = 音の特徴 に宿るものだが、声/音の特徴はあくまで声/音の特徴である。その人らしさ・人格を別の権利で守るなら、その点については問題がない。
具体的な音声作品も別の権利で守られているため、声を用いて生み出されたものも守られている。
では何か権利を設定する妥当性があるのか? 生まれ持った声だから自然と権利がつく? ナンセンスだ。論理を用意してくれ。

では、声そのものを真似るだけの化粧/メイク、すなわちボイスチェンジは何かを侵害しているだろうか?
ここまでの議論ではっきりした。
生まれ持った声そのものを守る権利は妥当ではなく、声の化粧/メイクたるボイスチェンジがそれを侵害するようなこともない

結論

ボイスチェンジは声のメイク/化粧だ。
知人そっくりのメイクをしたら、その人の顔面権侵害になるだろうか?
然るに、声のそのものの権利 - 音紋権 - は存在しない。

注意点

芸能人・声優という概念を持ち込むと別の議論軸が発生する。
端的にいうと、広く認知されたものに発生する商業的・財産的価値である。
パブリシティ権で議論される。
これは「声そのものの権利」とは異なる権利である
注意されたし.